日本には、公的年金制度というものがあり、成人は職業や働き方によって強制的に国民年金か厚生年金に加入することになっています。公的年金制度の1階建て部分と呼ばれる国民年金と2階建て部分と呼ばれる厚生年金には、保障の内容に違いがあります。
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目次
国民年金と厚生年金の違い
基礎年金と呼ばれる国民年金
国民年金法により、日本に居住する20歳以上60歳未満のすべての成人は、公的年金制度とも呼ばれる国民年金に自動的に加入します。職業別に、第一号被保険者、第二号被保険者、第三号被保険者に分かれていて、日本国籍の必要はなく、日本に居住するなら外国籍の方でも加入できる制度です。最大で40年間、保険料を支払うことになります。 年金として、被保険者に給付されるのは老齢基礎年金と呼ばれていて、国民年金の加入資格は学生、主婦、フリーターなどが対象です。学生など何らかの事情で国民年金保険料を支払うことができない方については、手続きをすることで保険料の支払いが免除されます。
追加の年金となる厚生年金
厚生年金保険が適用されている会社に勤務しているサラリーマンの方は、国民年金のほかに厚生年金にも加入しています。厚生年金は国民年金保険に上乗せされていますので、国民年金保険だけの方よりも保険料は高額です。そしてその保険料は、会社と加入者で半分ずつ負担することになっています。 公的年金制度を家に例えて「2階建て構造」と表現することがあります。国民保険のみの加入者は1階建ての年金となりますが、厚生年金加入者は国民年金と厚生年金の2階建ての年金に加入していることになるのです。受給するのは老齢基礎年金と老齢厚生年金となり、厚生年金加入者は、厚生年金と同時に国民年金の両方に加入します。納付する保険料は、厚生年金保険料に国民年金保険料も含まれている形です。 そのほか公務員や教職員の方は、以前は共済組合に共済年金という名前で加入していました。しかし共済は優遇されていることが多いとの理由から、現在は厚生年金に一元化されています。
加入する年金
国民年金は自営業者や学生
第一号被保険者とよばれる、国民年金。加入対象となるのは、自営業や学生、フリーター、国会議員などです。国民年金の加入者は平成29年度では約1700万人で、夫婦で自営業の場合も、国民年金に加入します。加入手続きは市区町村役所で行います。 国民年金は政府が管掌する、と法律で定められています。厚生労働大臣が責任者となり、実際の運営は日本年金機構が委任、委託されています。年金の支給も日本年金機構より行われます。サラリーマンの配偶者は、第3号被保険者ですが、年金の受給の際は国民年金と同じ扱いです。
厚生年金は会社員や派遣社員
第二号被保険者とよばれ、会社の厚生年金に自動的に加入。一部アルバイトやパートでも、ある一定の勤務状況を満たせば、厚生年金に加入できます。厚生年金に加入する年齢は上限70歳までですが、下限はとくに決まっていません。会社が厚生年金の適用事業所であれば、例えば中学を卒業してすぐに就職した場合でも、厚生年金に加入できる可能性があります。 第二号被保険者であるサラリーマンに扶養されている配偶者は、第三号被保険者となります。第三号被保険者の条件は、20歳から60歳未満で年収130万円未満の方。保険料の支払いはありません。年金を受給する際は、国民年金加入者と同じ扱いになります。
国民年金と厚生年金を切り替える場合もある
働き方や職業によって年金は、切り替えが必要な場合があります。今まで勤務していた会社を退職した際は、国民年金に加入する手続きを取ります。近くの市区町村役所に退職した日から14日以内に、年金手帳、離職票、印鑑、身分証明書を持参し、第二号被保険者から第一号被保険者への種別変更を行います。 退職した後、厚生年金の資格喪失の申請を会社が行うことで、自動的に第一号被保険者へと切り替わります。その後自分で国民年金への加入手続きを行うと、国民年金の納付書が発行されます。納付書は退職した日から遡り計算されるので、この手続きが遅れてしまうと、後日まとめて支払わなければいけません。 そして新たに就職した場合、国民年金の脱退や厚生年金への加入の手続きは、就職先の会社が行ってくれます。自分で手続きをすることは、ほぼありません。
国民年金と厚生年金の保険料額
国民年金は一定額
国民年金の保険料は、その年度ごとの労働人口、平均寿命の伸び率から改定率を設定、反映されるため、毎年変わります。被保険者の所得にかかわらず一定額を納付しますが、所得の条件によっては保険料を免除されることもあります。 保険料を納付の期限より早く納付すると、前納割引制度が適用されます。この制度を利用するには、近くの年金事務所にて手続きを行いますが、前納の手続きには所定の期日があるので注意が必要です。前納した期間中に、国民保険から厚生年金に種別変更した場合、前納した保険料は請求することで還付されます。 国民年金の保険料を滞納したからといって、ブラックリストにのることはありません。滞納分を支払えばよいだけですが、期限は決められています。しかし、平成26年度からは強制徴収制度により、特別催告状が送付されるケースもあるようです。 年間400万円以上の収入があり、13ヶ月以上の滞納がある方が催告状の対象となります。催告状が届いても国民年金の保険料を納付しないと、財産が差し押さえられてしまうことも。なるべくきちんと納付することを心がけ、経済的に無理であれば免除の申請を行うべきです。
給与によって変わる厚生年金
厚生年金は、国民年金の上乗せになります。厚生年金の加入者の標準報酬月額で決定されるため、加入者の収入と期間によって厚生年金保険料の金額は変わります。厚生年金保険料は、会社と加入者で折半するのが大きな特徴です。 加入者の収入が高いと年金保険料が増加する、「報酬比例」と呼ばれる方式で受給します。納付した金額の累積が大きいほど、受給する年金額も大きくなるのです。この厚生年金には国民年金が含まれているため、厚生年金は国民年金よりも割高になっています。
国民年金と厚生年金の保障内容
国民年金で受けられる保障の種類
老齢基礎年金のほかに、障害基礎年金と遺族基礎年金があります。障害基礎年金は、年金加入者が病気や怪我で障害が起きたときに支給されるものです。障害基礎年金には支給の年齢条件がないので、若い方でも受給できます。 ただし、障害基礎年金を受給するには一定の条件があります。医療機関での初診から1年6ヶ月が経過しても障害が残っている場合や、20歳未満のころから障害がある、国民年金の保険料を納付した期間が加入期間の3分の2以上ある場合などです。 遺族基礎年金は、国民年金の加入者が死亡した場合、生計を一にしていた「子供のいる妻」か「子供」に支給されます。条件は国民年金加入者で、老齢基礎年金の受給資格者が死亡、死亡した人の国民年金の保険料を納付した期間が加入期間の3分の2以上ある場合。子供は18歳になった年度の末日までが受給対象になります。
厚生年金で受けられる保障の種類
厚生年金にも、障害厚生年金や遺族厚生年金があり、どちらも国民年金加入者よりも手厚い保障を受けることができます。とくに遺族厚生年金は、「妻と18歳未満の子供」に支給されます。国民年金の遺族基礎年金は「18歳未満の子」か「子供のいる妻」のどちらかが対象となっています。 厚生年金の保障の種類にあって、国民年金にないものに「傷病手当金」と「出産手当金」があります。厚生年金の加入者は、厚生年金と同時に健康保険組合へ加入しています。健康保険法によりその健康保険組合や協会けんぽなどから、怪我や病気をして就労不能になった際に支払われる手当金です。 傷病手当金の支給期間は原則、1年6ヶ月です。怪我や病気により働けなくなった場合の所得補償として支給され、医師の証明書が必要になります。会社に在職中のときは会社が手続きを行ってくれますが、もし支給期間内に退職してしまった場合は自分で手続きを行う必要があります。その手続きを行うことで、支給開始から1年6ヶ月は受給できるようになります。 国民年金にない保障のもう一つが出産手当金。これは、出産日の42日前(多胎妊娠は98日)から出産後56日の間、仕事を休職した際に支払われます。公休日も含めての支払いになり、出産当日は産前の扱いになります。 どちらの手当金も標準報酬日額の3分の2が支払われます。傷病手当と出産手当が重なる場合は、出産手当が優先されます。
老後の年金額
1階建て部分だけの国民年金
20歳から60歳まで40年間きちんと、国民年金保険料を納付した方の年金額は、平成29年4月分からは1人当たり年779,300円。しかし、これには条件があります。40年間、きちんと毎月支払った場合なのです。払わない、払えない月が多くなるほど年金として受給する金額は減少します。 国民年金は、すべての国民の老齢、障害、死亡により所得が減少したり失った場合の生活の安定を目的としています。そのため保障としては、最低保障。最低の保障ですが年金の基礎となります。そして支給される金額は物価スライド方式により決定します。物価により、支給額が増額したり減額したりと変動するということです。
2階建て部分までもらえる厚生年金
厚生年金は、1階部分の老齢基礎年金と2階部分の老齢厚生年金が支給されます。保険料は国民年金よりも高額になりますがそれは国民年金を含んだ追加の年金だからです。 受給する年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金の2種類。老齢厚生年金は、加入していた期間や加入して期間の収入により個人差があります。しかし、国民年金よりも保障される内容も広く充実した内容になっています。 事業所が厚生年金基金に加入している場合、従業員は自動的に厚生年金基金の加入者になります。その場合、年金は3階建構造となるのでさらに充実した保障内容を受けることができます。
具体的な受け取り額の差はどれくらいなるの
国民年金だけの場合、老齢基礎年金だけが支給されます。平成29年度の国民年金の加入者が支給されている老齢基礎年金の平均金額は月64,942円、夫婦2人で約13万円といわれています。あくまで40年間、きちんと納付した場合なので、加入期間が足りない場合は支給される金額も減額されます。 厚生年金は、その人の年収により金額が変わります。夫に月額42万円の収入があり、40年間厚生年金に加入、妻は専業主婦の場合、夫は「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」を受け取ることができ、その金額は年間約1,876,032円となります。妻は国民年金加入者と同じなので、年金として年間779,300円受けることができます。夫婦の合計は年間約2,655,332円。月額では約221,277円となります。 国民年金だけの夫婦と厚生年金の夫婦を比べた場合、その差額は9万円以上になります。ただし、厚生年金の加入者は、特別支給の厚生年金などさらに年金受給額が増える場合もあります。
年金を最大限もらう為の対策
国民年金の増額方法
月々の保険料に400円をプラスするだけで、払った総額の半分が老齢基礎年金に加算される付加年金という方法があります。この方法は国民年金の加入者だけが利用できる制度。近くの市区町村役所で申し込みができます。 また、国民年金基金に加入する方法もあります。付加年金と国民年金基金は一緒に加入できません。それは、国民年金基金には付加年金がすでに組み込まれているからです。そのほか「個人向け確定拠出年金(iDeCo)」に加入するという方法もあります。 これは、月5000円以上の掛け金を積み立て・運用する方法ですが、金融機関により手数料や内容にばらつきが大きい商品なので注意が必要です。
厚生年金の増額方法
厚生年金は、老齢基礎年金と老齢厚生年金が支給されます。その年金額は「加入期間」と「加入中の平均給与」で決定します。国民年金には、追納という方法がありますが、厚生年金では追納はできません。退職すると厚生年金の加入資格を失うためです。 厚生年金を増額させるなら、繰り下げ制度の活用をします。65歳から支給される厚生年金を先延ばしにし、最長70歳から受給するのです。老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げられますが、特別支給の老齢厚生年金は繰り下げ制度の適用となりません。 厚生年金も、年金の受給資格が不足している場合は、 高齢任意加入被保険者制度を利用して70歳以降も厚生年金に加入することができます。この制度は、厚生年金の受給金額を増額させる最後の手段と言えるでしょう。
国民年金と厚生年金は保険料額と保障内容が大きく違う
日本に居住する成人は、国民年金か厚生年金のいずれかに強制加入しています。その種別は自分で選ぶことができず、職業や働き方によって決められています。大きく分けると自営業や学生さんは国民年金、会社員や公務員は厚生年金に加入しています。 国民年金は家に例えると1階建てと呼ばれる部分、老齢基礎年金のみの受給となり、受け取る金額は全ての人が同じ金額を受給します。厚生年金は、2階建ての保障として、老齢基礎年金と老齢厚生年金が支給され、その金額は加入者の年収や加入期間により異なります。 また、事業所によっては厚生年金基金に加入しているところもあり、その場合は支給金額が増額されそのほかさまざまな保障を受けることができます。 国民年金と厚生年金との大きな違いは、保障の内容です。障害を負ってしまった場合や遺族年金を受け取る場合、受け取れることができる金額や受け取れる人が違います。厚生年金は人によって受け取る金額が違ってきます。 「まだまだ先のことと」と思わずに、早めに自分の受け取れる金額を把握し、対策を取るようにしましょう。わからない場合は、ファイナンシャルプランナーなどに相談してみるのもおすすめです。
エクセライク保険株式会社 代表取締役。2018年MDRT会員取得。
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