会社員の夫が突然死亡してしまうようなもしものとき、遺された家族に支給される遺族厚生年金。遺族として年金を受け取るにはどんな条件があって誰にいつ、いつまで支給されるのか。遺された家族全員が幸せに暮らせるように、しっかりと受け取りましょう。
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遺族厚生年金とは
被保険者が在職中に死亡した際に支給
遺族厚生年金は厚生年金の被保険者が在職中に死亡したときに、死亡した人によって生計を維持されていた遺族に支給されます。ただし保険料を支払った期間が保険料支払いの免除期間を含み、国民年金に加入していた2/3が必要となります。つまり国民年金保険料の未納の期間が1/3未満であるという保険料納付要件を満たしている必要があるのです。 厚生年金加入中であっても、同時に国民年金の保険料も納めていることになります。たとえば国民年金に加入していて10年間保険料を支払った後に厚生年金に加入し、それから5年経過したとすると国民年金の納付期間は15年となります。 このときに国民年金に単独で加入していた最初の10年間の内5年滞納していても、厚生年金保険料を支払った期間を含めた15年から5年を引くと10年。つまり15年中10年分の支払いなので、2/3を支払ったことになり保険料納付要件を満たします。 死亡した日が平成38年4月1日前で65歳未満の場合は、この保険料納付要件が満たされていなくても支給されます。この場合でも死亡した日が属するその月の前々月までの1年間に、保険料の滞納がないことが必要です。
加入中のケガや病気の初診日から5年以内に死亡した際も支給
厚生年金加入中に初診日があるとき、そのケガ又は病気がもとで死亡した場合であれば、支給されます。たとえば、在職中(厚生年金加入中)にケガや病気で病院に行きます。そのあとに会社を辞めたりして厚生年金を脱退したとして、それから初診で診断されたケガや病気が原因で死亡するケースが当てはまります。 ただし、初診日から5年以内に死亡したときです。この場合であっても、国民年金に加入していた2/3の保険料納付要件が、満たされることが必要です。
老齢厚生年金の受給権者が死亡した場合に支給
遺族厚生年金は、老齢厚生年金を受け取れる人(受給権者)が死亡した場合にも支給されます。また現在年金を受け取っている人が死亡した場合にも支給されます。老齢厚生年金の受給権者になるには、老齢基礎年金を受け取れる要件を満たしていることが必要となります。老齢基礎年金とは、支給される年金の国民年金部分です。 老齢基礎年金の受給資格期間として、保険料の納付期間が今までは25年以上でしたが、2017年からは10年以上になりました。国民年金、共済年金、厚生年金のいずれかに加入していたら、その全期間が同時に国民年金の加入期間です。共済年金や厚生年金の加入期間は、同時に国民年金保険料も支払ったことになり、納付期間も通算してカウントされます。 国民健康保険料納付期間を満たし、厚生年金に加入していた期間が1ヶ月以上あること。それから65歳に達していること。この全てを満たした人が、老齢厚生年金の受給権者です。
老齢厚生年金の受給資格期間を満たした人が死亡した場合に支給
現在年金の受給権者でない人で、厚生年金の受給資格期間の25年以上を満たした人が死亡したときにも支給されます。これは現在退職して厚生年金に入っていない場合でも、この期間が満たされている人が死亡した場合には支給されるのです。 受給資格期間は厚生年金、国民年金の保険料を支払った期間を通算したものです。この期間を25年として考えた場合、たとえば厚生年金加入期間である会社員であった期間が10年、自営業で国民年金であった期間が15年とすれば、合計の期間が25年なので受給資格期間が満たされます。 しかし会社員として働いて厚生年金加入期間が24年で、その後会社員をやめてから国民年金の保険料を滞納すると、合計して24年なので25年の資格期間としては満たされません。この場合、遺族厚生年金も受け取れないことになるので注意が必要です。したがって、保険料はしっかりおさめるようにしましょう。
障害厚生年金の1級または2級を受けられる人が死亡した場合に支給
障害厚生年金の1級、2級を受けられる人が死亡した場合も、遺族厚生年金の支給要件になります。障害厚生年金の支給要件で、最初に必要な要件は、厚生年金に加入している在職中に、障害の原因となったケガや病気で初めて診察を受けたことです。これは、在職中にケガや病気の初診日があり、それが原因で5年以内に死亡したときと同様に、国民年金に加入していた期間の2/3の保険料納付要件があります。 障害厚生年金を受けられる人は在職中のケガや病気が原因であるため、遺族厚生年金の受給資格期間の25年を下回る可能性が高くなります。つまり、受給資格期間の25年を下回っても支給されるケースの一つとなるのです。 その場合の遺族厚生年金の支給額の計算に使用されるのが、加入月数。受給資格期間の25年は、加入月数でいうと300ヶ月です。加入月数が300ヶ月未満であっても300ヶ月加入していたとみなして計算されます。極端な場合、1年しか加入月数がなくても25年加入したとして計算されるので加入期間が24年加算されることになります。
自営業等の人には受給資格がない
遺族厚生年金は、厚生年金加入者が死亡したときに遺族に支給されるものです。一般に厚生年金の被保険者となるには、厚生年金に加入している企業で基本的に常時雇われることが要件です。 また特に厚生年金に加入できない人としては、日雇労働者、期間2ヶ月以内の契約社員、期間4ヶ月以内の季節的業務の人、公務員、海外の法令適用を受ける人、所在地が一定でない事業所で働く人、臨時的な事業所で働く人とされています。 パートなどの非正規の雇用でも、常時雇用されていれば厚生年金の加入が可能です。この場合の常時雇用とは、労働日数や労働時間が正社員の3/4以上であるかどうかで判断されます。 自営業の場合は、雇用される側ではなくて雇用する側なので厚生年金には加入できず、遺族厚生年金の支給要件には当てはまりません。しかし企業に雇用されていた時期があり厚生年金に加入した期間がある場合は、現在加入していなくても受給資格期間の25年を満たすなどの条件をクリアすれば、支給対象になることがあります。
遺族年金は非課税となる
遺族年金は、遺族基礎年金と遺族厚生年金を含めて相続税や所得税などの税金はかかりません。しかも上限はないため、かなり税制上優遇されているといえるでしょう。しかし遺族年金だけで生活をしていくには、金額的に難しいケースが多いようです。 遺族年金以外で今後別の収入が増えるタイミングは、遺族年金を受給している妻または夫が65歳になったときに老齢基礎年金の支給が開始されるときです。遺族年金も継続して支給されますが、これに関しては非課税なので新たに支給が開始される老齢基礎年金に対してのみ課税がされます。遺族年金は課税対象となる収入としては完全に除外されます。 働いて遺族年金以外の収入を得ても遺族年金は非課税です。働いた収入に対してのみ課税されます。確定申告は基本的に不要ですが他の理由で確定申告をするときも、遺族年金に関しては全く申告の必要はありません。 他の家の扶養家族になるには年間の所得が38万円以下であることが必要ですが、この所得として遺族年金分は除外されます。遺族年金の他に38万円以下の収入があっても、扶養家族になれます。遺族年金は非課税であることに加え、収入としてカウントされないのです。
遺族厚生年金の受給資格がある遺族
被保険者の配偶者
被保険者の配偶者として当てはまるのは、被保険者の妻または被保険者の55歳以上の夫とされています。配偶者が夫の場合は60歳からの支給となります。遺族基礎年金を受給している場合であれば、60歳に到達していなくても遺族厚生年金が同時に支給されます。 配偶者である妻に遺族厚生年金が支給される条件として、死亡した被保険者である夫によって生計を維持してきたことです。配偶者の妻に子どもがいない場合年齢が30歳未満であれば有期給付となり、その期間は5年間。逆に30歳以上であれば終身給付となります。 また遺族厚生年金を受け取る妻に18歳になる年の年度末を過ぎていない子ども、または障害等級が1級、2級の20歳未満の子どもがいるときは遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方が受給できます。 配偶者が妻である場合、被保険者である夫が死亡したときに40歳以上65歳未満であれば中高齢寡婦加算が支給されます。ただし18歳未満の子どもがあるときは、遺族基礎年金を受給できます。この場合中高齢寡婦加算は支給されません。子どもが18歳に到達するなどで、遺族基礎年金の支給が終了したときに支給が開始されます。 中高齢寡婦加算は65歳になると支給が停止され、この時点で老齢基礎年金の受給が始まります。つまり40歳以上から64歳までは遺族厚生年金と中高齢寡婦加算が受給でき、65歳になったら遺族厚生年金はそのままで老齢厚生年金が受け取れることになります。 戸籍上は婚姻関係にないものの、事実婚が認められると配偶者として扱われます。この場合の遺族厚生年金の受給要件は、事実婚が認定されることです。実際には国民年金第3号であることや、健康保険上の被扶養者になっていると生計が維持されていることが証明されるようです。そうした証明書類と日本年金機構の「事実婚関係及び生計同一関係に関する申立書」という様式の書類に記入して提出します。 被保険者である配偶者が死亡した後に再婚したとき、死亡した配偶者の親族関係がなくなったとき、祖父母や配偶者の祖父母ではない人の養子になったときは遺族厚生年金を受給する権利がなくなります。
被保険者の子ども
障害厚生年金を受け取ることのできる遺族の優先順位の一番目は子どもがいる配偶者で、2番目が子です。これら配偶者や子は死亡した被保険者により生計を維持していたという事実が必要です。 配偶者が夫である場合で55歳未満であるなどで受給する配偶者がいないとき、受給権は被保険者の子となります。この場合の子とは18歳に達する日を含む3月31日までの間であることと、まだ配偶者がいない者のことをいいます。被保険者の死亡当時から引き続き障害の等級が1級または2級の状態にある者は20歳までを子とします。 障害の等級が1級または2級の20歳までの子、障害がない18歳までの子。それぞれの年齢に達した年度末に受給権は失効します。 受給権の優先順位は子のあとに子のいない配偶者、父母、孫、祖父母と続きますが、受給していた優先順位上位の者が受給権を失効したときに、子のいない配偶者までは下位の者に受給権が移ります。しかし父母、孫、祖父母に受給権が移ることはありません。
被保険者の父母
遺族厚生年金の受給権優先順位上位の子のいる配偶者、子、子のない配偶者がいない場合や、受給権がない場合は被保険者の父母に受給権が移ります。 ただし被保険者が死亡したときに55歳以上であることと、被保険者によって生計が維持されていたことが必要です。その場合であっても支給は60歳からとなります。 遺族厚生年金が被保険者の父母に支給開始され、死亡などで受給権を失効したときや父母が60歳の支給開始前までに死亡したときは、下位の孫などへの受給権移行はされず、完全に受給権が消滅します。
被保険者の孫
被保険者の配偶者、子、さらに父母に受給権がない場合は孫が受給権を得ます。孫が遺族厚生年金を受給できる条件としては、被保険者の子どもの条件と同じで障害の等級が1級または2級の20歳までの子、障害がない18歳までの子。それぞれの年齢に達した年度末に受給権は失効します。 ただし死亡した被保険者に生計を維持されていたという条件がありますので、子と子の配偶者と孫が家族として普通に暮らしているのであれば、支給されることはまずありません。たまに孫にものを買い与えることや、お祝いや小遣いを与えたとしても、それぐらいでは生計を維持していたとはいえません。 不幸にも被保険者の父母、配偶者、子の全てが他界し孫の生計を維持していた場合や、子と孫が別居して子育てを放棄するなどの理由で孫の生計を維持していたときや、子と子の配偶者が何らかの理由で生活ができずに孫を含めて被保険者に生計を維持されていたケースなどが考えられます。いずれにしてもとても稀なケースであるといえるでしょう。
被保険者の祖父母
厚生年金の被保険者の子のいる配偶者、子、子のいない配偶者、父母、孫に受給権がないときは、祖父母に受給権が発生します。祖父母の場合も父母、祖父母、被保険者の夫と同様に55歳以上であることが必要で、支給されるのは60歳からです。 これも他の受給権者と同じで、被保険者に生計を維持されていたという条件があります。被保険者の配偶者や父母がすでに他界し、子は独立して生計を立てている状況で祖父母を養っているケースなどが考えられます。こちらも稀なケースであるといえるでしょう。 祖父母ともなるとほとんどの人は65歳を超えていると想像できます。65歳以降では遺族厚生年金は老齢基礎年金と重複して受給できます。ただし、厚生年金に加入していた人が老齢厚生年金を受給するときに遺族厚生年金のほうが高額であれば、その差額が支給されます。逆に老齢厚生年金のほうが高額であれば、遺族厚生年金の支給が停止されます。
遺族厚生年金を受け取れる遺族の条件とは
被保険者の死亡時に生計を共にしていた
遺族厚生年金が支給される遺族として認められるには、被保険者の死亡時に生計を共にしていたことと、被保険者に生計を維持されていたことが条件です。このうち生計を共にしていたことについては住民票で同じ世帯であること、また住民票の世帯は異なるものの住所が同じであることで認められます。 その他、住民票上の住所が違っていても実際には一緒に生活をしていたりして、事実上生計を共にしていた場合があります。また夫が単身赴任することや、大学に通うために子が下宿しているケースなども生計を共にしていたと認められます。このように生計を共にしていたという要件を生計同一要件といいます。
年収が850万円未満である
生計を維持されていたことを証明するには、前年の年収が850万円未満であることを証明する必要があります。年収には一時的に発生する収入は含まれません。また前年の年収が850万円を超えていても、5年以内に退職などで年収が850万円未満になることが見込まれるときも、生計を維持されていたとみなされます。 一般的に考えると生計を維持されていた人というのは、維持する人のほうの収入が高いのが普通であると思えます。しかし、実際にはそれとは異なるようです。 たとえば、ある共働きの夫婦で妻のほうの年収が高くて夫のほうの年収が低い場合を想定し、仮に夫の年収が300万円で、妻の年収が850万円とします。このときに年収が低いほうの夫が死亡したとしても、年収が高いほうの妻が生計を維持されるものと認められて、遺族厚生年金が支給されます。 生計を維持される人が維持する人よりも年収がはるかに高い場合であっても、850万円未満であれば生計を維持されていたことが認められるのです。被保険者に生計を維持されていた要件を生計維持要件といい、生計維持要件は収入で判断されます。
以上の2つを満たす必要がある
遺族厚生年金を受け取れる遺族の条件としては、死亡した被保険者に生計を維持されていたことの生計維持要件と、被保険者の死亡時に生計を共にしていたことの生計同一要件の二つを満たす必要があります。 被保険者の配偶者や子であることなど、遺族厚生年金を受け取ることができる遺族の範囲であることは、遺族厚生年金を受け取るための条件です。しかしそれよりも以前に生計維持要件と生計同一要件の二つは、必ず満たされる必要があります。
遺族厚生年金は生計を共にしていた遺族に支給される
家族の大黒柱がある日突然になくなってしまった場合、遺された家族はたちまち生活に困ってしまいます。もしものときに家族が生活に困らないようにと願うことは、多くの人が思うことでしょう。 厚生年金は老後の本人の生活を保障するだけのものではなく、残された生計を共にしていた家族にとっても重要な生活保障であり、公的な生命保険といえるでしょう。特に生計を維持されていた配偶者が妻である場合は年齢にもよりますが基本的に一生涯支給され続け、老後の生活にも大きく影響します。 さらに18歳未満の子どもがいる場合(障害1級や2級の場合は20歳)は遺族基礎年金も同時に支給され、今後生活を維持し子育てをしていく上で大きな力になってくれることでしょう。
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